「全固体電池」はEV業界の勢力図を一変させる可能性も
6月13日、トヨタ自動車が2027年にも次世代電池の本命とされる「全固体電池」を搭載したEV(電気自動車)を投入すると報じられました。この報道を受けて、トヨタ自動車の株価は2日間で一時13.6%の急騰となりました。時価総額では実に4兆円強の増加となり、「全固体電池」への期待感の高さがあらためて意識される状況になりました。
現在のEVバッテリーの主流であるリチウムイオン電池は、正極と負極の間にセパレータと電解液が内包されていますが、全固体電池は両極の間に固体物質の電解質のみを内包した構造となっています。これにより、全く液体を使用せず、セパレータも不要になります。電解質が液体から固体に置き換わることでエネルギー密度が高まるため、航続距離の延長が可能となります。また、液体と比べて発火のリスクが低くなるなど、より安全性も向上することになります。
国内自動車メーカーは米国や中国と比べ、EVではやや出遅れている印象があります。一方、全固体電池の開発力・技術力は、日本が世界的に先行している分野とも言われています。トヨタ自動車では、将来的に10分以下の充電時間で航続距離を約1,500kmまで伸ばすことも視野に入れているもようです(テスラの「モデルY」は約15分で260km)。
今後の全固体電池の開発進展次第では、EV業界の世界的な勢力図が一変する可能性もありそうです。なお、経済産業省では、トヨタ自動車とグループ会社のEV向け電池開発に対して1,178億円の補助金を出すと発表、全固体電池の開発推進は国策とも捉えられ始めてきました。
米国では全固体電池開発の新興企業が存在感
一方、米国では新興企業のクアンタムスケープが全固体電池の最先端企業といえます。独フォルクスワーゲンやビル・ゲイツ氏らが支援する企業で、自動車メーカーへ多層電池のプロトタイプ(試作品)の出荷も開始し、数年後の製品化を目指しているようです。
また、電池開発企業のソリッドパワーには、独BMWや米フォード・モーターが出資を行っています。BMWではソリッドパワーとの共同開発契約を拡大し、2025年までに全固体電池を搭載したデモンストレーション用車両を製造する計画としています。
全固体電池はリチウムイオン電池と比較して製造コストが高く、普及に向けてはいかにコストを低減できるかがカギとなっているようです。全固体電池の開発が難航する間にテスラのEV販売シェアが一段と拡大していくのか、あるいは、開発・実用化が計画通りに進み、業界トップのテスラの牙城が崩れていくのか。
そしてその際に、テスラでは先にあげたような米国の新興電池企業と連携策をとっていくのかなど、今後数年は自動車業界の優勝劣敗が一気に進む可能性のある局面になってくると言えそうです。
トヨタ自動車|7203
国内自動車最大手。全固体電池を2027年にも実用化すると発表。現行のEV「bZ4X」に使われているリチウムイオン電池と比較して、体積当たり2.4倍の航続距離延長を目指している。全固体電池に関連する特許は1,300超と世界的にも圧倒。
出光興産|5019
石油元売り業界で国内第2位の位置づけ。2021年11月より全固体電池向け電解質の商業生産に向けた実証設備の稼働を開始。2023年7月からは第2プラントの稼働も開始計画のほか、2024年度内完工を目指して第1プラントの生産能力増強も計画。
パナソニックホールディングス|6752
総合電機大手の一角。車載用リチウムイオン電池では国内トップ。テスラと共同で電池工場「ギガファクトリー」を運営。トヨタ自動車とも全固体電池の研究開発を含めた車載用電池事業で提携。ハロゲン化物を用いた固体電解質材料など注目される特許も多く取得。
ゼネラル・モーターズ|GM
米自動車大手。2009年に経営破綻し米政府資本の新会社に優良資産を移管した後、2010年に再上場を果たし、2013年には政府管理から脱却。2018年11月、EVや自動運転車に経営資源を投入する計画を発表。全固体電池などの新技術や生産方法などの研究開発も加速。
テスラ|TSLA
EV世界販売の最大手企業で米国では65%のシェア。2022年のEV世界販売台数は約131万台で前年比4割増。コストを大幅に低減した新型車種投入計画。北米急速充電器でシェア6割とインフラ面でも規格競争の主導権握る。現状では液系リチウムイオン電池に注力。
記事作成日:2023年7月12日