今日の1万円と1年後の1万円 価値が違うって知ってた?
今日の1万円と1年後の1万円。同じ金額ですが、実は価値が違います。「時間の経過とお金の価値」について、考え方を簡単に説明しましょう。
今日のお金は、1年後のお金より価値が高い
お金の価値は、時間の経過に応じて変わります。今日受け取る1万円は、「1年後に1万円あげるよ」と言われるより、嬉しく感じるものです。
今日のお金が将来のお金より価値が高い理由は、主に3つです。
(1)基本的には、時間の経過で物価が上昇するから
(2)将来がどうなるかはわからないから
(3)今、手元にお金があれば使うことができるから
(1)について、人間は、「良い生活を送りたい」「幸せに暮らしたい」と思うので、欲がある限り、基本的には経済が上向くと考えられています。インフレを考慮すると、「将来のお金の価値は、現在のお金の価値に物価上昇分を加えたもの」と表現できます。
この文の主語を入れ替えると、「現在のお金の価値は、将来のお金の価値から物価上昇分を割り引いたもの」となります。金融の世界では、この表現がよく使われます。例えば、将来、1万円で商品を買いたいとします。今、この「将来の1万円」について語る場合、「将来の1万円」ではなく、「将来の1万円の現在価値」で語るのが金融の世界の会話です。
物価が上昇する場合、将来のある時点の物価は、その年まで毎年、繰り返し前年の物価に上昇率を掛けた値になります。反対に、将来のお金の価値を現在価値に言い替える場合には、物価上昇分を複利で割り戻します。
年1%のインフレの下では、10年後の1万円は現在9,053円
将来のお金の価値を現在価値に直せば、異なる時点でのお金の価値を同じ基準で比べることができます。
では、今の1万円と10年後の1万円の価値を比較してみましょう。見た目はどちらも1万円ですが、インフレを考慮すると価値は異なります。インフレ率を年1%とした場合の価値を【表1】で見てみましょう。
〈ア〉は、10,000円が1年間で1%上昇し、10,100円になりました。前年の値に毎年1.01を掛けていくと、10年後の価値は11,050円になります。
〈イ〉は、将来の価値からの逆算です。1年後の1万円を現在価値にする計算は「10,000円÷1.01≒9,901円」です。年数が長いほど、現在価値は小さくなります。10年後の1万円は、「10,000円÷1.0110≒9,053」で現在価値になります。
例えば、「10年後に60万円を受け取る」という金融商品は、「現在543,180円を受け取る」のと同じ価値です(9,053円×60)。インフレの下では、投資元本が手元に戻って来たのでは目減りです。年1%のインフレでは、543,180円が60万円以上でないと、物価に負けています。
1年後には、お金を受け取れないかもしれない
冒頭の(2)は、確実でない将来より、確実な現在の方が価値が高いことを意味しています。「1年後に1万円をあげるよ」と言われても、1年後には不幸にも死んでいるかもしれません。相手が約束を破るかもしれません。何が起こるかわかりません。今の時点で「1年後の1万円」に不安要素があるため、今、確実に受け取れる1万円の方が価値は高いといえます。
今日の時点で、今日の1万円と1年後に受け取る1万円を比較した場合、今日の1万円の方が嬉しく感じるのは、今なら確実に受け取れるからです。
「もらえないかもしれないリスク」で価値は下がる
では、1年後にお金がもらえないことがあるならば、その確率はどのぐらいでしょうか。もらえない確率は、そのお金の背景、お金を授受する両者の状況、さらには全体的な経済環境などから予測されます。将来受け取る1万円は、その日までの「もらえないかもしれない不安」とセット。もらえない確率が高いほど、お金の現在価値は低くなります。
この「お金がもらえないかもしれない確率」が「リスク」です。将来の1万円を現在価値で表す場合、リスクの度合いを数値化して割り戻します。
将来受け取れるかどうかの不確実性は、統計の「分散」で表されます。しかしここで分散の定義を持ち出すと話が難しくなってしまいますので、事例で考えてみましょう。
例えば、今あなたが、ある品物をA氏とB氏にそれぞれ「1年後に1万円で買い取ってもらう」と約束したとします。A氏は定期収入があり約束を守るタイプ、B氏は失業中で時々約束を破る人だとします。この2人から1年後にそれぞれ受け取る1万円を現在価値に直す場合、A氏の割引率はB氏の割引率より低く見積もることができます。
仮に、1年後に1万円を受け取れないかもしれない確率を、A氏は1%、B氏は10%とします。それぞれの1年後の1万円の現在価値は、【表2】のように求められます。
このように、将来の不確実性の大きさで、お金の現在価値は変わります。
現金を持ち続けることはデメリット?!
現金を持っていることが、デメリットになる場合もあります。冒頭の(3)を考えてみましょう。
投資をしたりお金を貸したりすれば、通常は運用益が得られます。現金で持っているだけでは利益も利息も生じません。それどころか、投融資で得られるだろう利益のチャンスを逃したと解釈されます。このように、長期間保有している現金は、その期間に得られるだろう利益の分、目減りしていくと考えられます。
また、お金を個人のスキルアップや企業の事業拡大に使えば(これらも"投資")、現金で保有するより利益を生むチャンスがあると見ることができます。
手元のお金で買い物をしたら、残高が減ります。けれど、現金がモノやサービスに置き換わりました。消費したモノやサービスがその人の生活、仕事、人生に重要ならば、少しでも早く手に入れて使用した方が、その人にとって有益かもしれません。
その消費をせずに現金を持ったままだった場合、商品やサービスによる便益を得る機会を失ったという見方もできます。消費した場合に比べて現金が減らずに済みましたが、消費で得られる「何か」を失ったとも言えるのです。
まとめ
このように、物価変動や不確実性、金利の違い、期間の違いで、お金の価値は異なります。しかし、ライフプラン設計や資産運用では、「時間とともに運用益が得られ、その分、お金の価値が高まる」という意識が重要です。
一般に、預金や保険契約、老後の年金などを考える場合、この「時期をそろえる」という発想が欠けていることが多いものです。お金との付き合いは、誰でも、将来にわたって長く続きます。時間の経過によるお金の価値変化は重要です。マネー知識とは、貯めたり殖やしたりという運用術と思われがちですが、このようなお金の持つ性質も理解しておきましょう。
(DZHフィナンシャルリサーチ)