円高メリットのある業種は?
外国為替市場では、急速に円高が進行しています。7月10日に161円台後半だったドル/円相場ですが、7月25日には一時151円台まで円高ドル安が進みました。
約38年ぶりの円安水準にあったドル/円相場が反転してきた要因としては、経済指標の軟化が目立ってきた米国で9月利下げ実施の可能性が高まっていること、大統領選挙でトランプ氏が、円安や人民元安を容認せずドル高を是正する意向を示したこと。また、国内では、河野太郎デジタル相が円安是正のために利上げするよう日銀に求めたと報じられたことなどが挙げられます。
円高ドル安は、一般的に輸出企業にとってはマイナス、輸出よりも輸入金額が大きい企業にとってはプラス要因となります。
日本では輸出企業が中心となっているため、株式市場全体で見れば、円高はマイナス要因となります。ただ、個別で考えた場合、円高が企業収益にプラスとなる企業も多く、こうした企業は今後の株価上昇が期待できることになります。
円高がメリットとなる企業は主に、原材料や部品などを多く輸入している企業、輸入品を仕入れ販売している企業などがまず挙げられます。
業種でいえば、食品、小売り(インバウンド需要という点ではマイナス)、外食、電力、紙パルプなどとなります。また、円高は海外旅行需要の拡大につながりやすく、旅行関連の一角などもプラスとなるでしょう。
エービーシー・マート<2670>
靴専門店で最大手の企業です。全国で「ABC-MART」などをチェーン展開し、国内店舗数は1,100超あります。韓国や台湾など海外でも事業を展開しています。
国内売上の2割強が自社企画商品で、そのうち9割を海外から輸入しています。輸入商品の大半がドル決済であり、ドルが1円円高になると、仕入原価が1.5億~2億円減少します。第1四半期決算は増収増益と足元の業績は堅調推移となっています。
株価は2022年3月安値1,490円から今年5月10日上場来高値3,244円まで上昇。その後7月10日安値2,680円まで下落しましたが、全体市場が軟調な中、7月26日高値2,942.5円まで上昇しています。
ニチレイ<2871>
冷凍食品のパイオニア企業で、国内トップの売上実績を誇ります。低温物流に強みを持ち、冷蔵倉庫は国内外で226万トンの保管能力を持ち、世界5位の水準となります。主要事業において、商品や原材料の一部を海外調達しているため、為替の影響を受けます。
会社側では2024年3月期実績のドル/円レート140.55円に対して、2025年3月期は148円と円安を想定、加工食品事業で38億円の減益要因になると見ています。
株価は2022年6月安値2,171円から今年3月27日上場来高値4,204円まで上昇。その後7月8日安値3,393円まで下落しましたが、全体市場が軟調な中、7月26日高値3,891円まで上昇しています。
日清食品ホールディングス<2897>
「カップヌードル」、「日清ラ王」、「日清焼そば U.F.O.」などの有力ブランドを展開する即席麺の最大手企業です。冷凍食品や健康食品まで様々な商品を扱っています。
主要原材料は、小麦粉・パーム油などの農産物及び包材に使用する石油製品であり、原産地と日本の為替動向に影響を受けます。2024年3月期営業利益は前期比204億円の増加でしたが、資材価格、エネルギーコスト上昇が国内で158億円の減益要因となったようです。
株価は長期的に上昇傾向が続き、2023年12月7日上場来高値5,225円まで上昇。その後5月31日安値3,872円まで下落しましたが、全体市場が軟調な中、7月19日高値4,398円まで上昇しています。
ワークマン<7564>
作業服・作業用品、アウトドアウエアの専門店チェーンです。作業服・作業用品分野の売上高は圧倒的な首位となっています。プロ顧客向け店舗、一般顧客向け店舗など合わせ、1,000店舗強で展開しています。
売上高の7割近くがプライベートブランド商品によるもので、このほとんどは海外から直接仕入れています。円安は売上高総利益率の低下につながり、実際、2023年3月期以降の円安進行で売上高総利益率は大きく低下する状況となっています。
株価は2020年7月高値10,490円から今年6月19日安値3,450円まで下落。その後は全体市場が軟調な中、7月25日高値4,170円まで上昇しています。
エイチ・アイ・エス<9603>
大手旅行会社で、海外および国内旅行を取り扱うほか、訪日外国人向けや法人向けの旅行も取り扱っています。足元までの円安進行は海外旅行手控えの一因であったとみられますが、コロナ禍前の2019年10月期は、海外旅行取扱高が旅行事業全体の6割以上を占めており、大きな収益柱でもありました。
円高への反転によって、日本人の海外旅行が増加すれば、円安下でのインバウンド需要増加と比べても、より大きな収益インパクトが予想されます。
株価は2022年以降はおよそ1,800円~2,400円のボックス相場が続いていましたが、2023年秋以降はおよそ1,600~2,200円のボックス相場となっていました。その後ボックスを下抜けし今年7月9日安値1,503円まで下落。その後は全体市場が軟調な中、7月25日高値1,698円まで上昇しています。
ニトリホールディングス<9843>
家具・インテリア専門店の大手企業です。国内外約1,000店舗で展開しています。PB商品が売上の9割を占め、それらはインドネシアやベトナムなどアジアを中心とする自社および協力工場から調達しています。
海外生産比率が高く、円高メリットの代表銘柄と位置付けられています。2024年3月期経常利益は前期比117億円の減益でしたが、380億円は為替のマイナス影響であったもようで、連続増収増益記録も途絶えました。
株価は2022年10月安値11,465円から今年3月25日高値24,420円まで上昇。その後7月10日安値16,355円まで下落しましたが、全体市場が軟調な中、7月25日高値18,285円まで上昇しています。
記事作成日:2024年7月26日