世界中の旅行業界を凍りつかせた新型コロナウイルスが下火になり、リベンジを含む旅行消費が本格的に回復しています。欧米では一足先に行動制限が緩和されましたが、今年はアジアの一部の国で4年ぶりに行動制限のない夏休みになりました。
代表格は中国です。コロナ前は爆買いが象徴するような行動で世界中の観光地にお金を落としていただけに、中国の旅行需要の回復が期待されます。
ただ、中国はコロナ禍の傷跡が深く、景気回復の足取りも鈍いようです。さらにドル高・人民元安を背景に海外旅行のハードルは高く、コロナ前の水準に戻るにはなお時間がかかりそうです。
とはいえ旅行銘柄は北半球の夏に業績が伸びるサマーストックの宝庫です。7-9月期決算の発表が本格化する時期を迎え、業績期待が高まりやすいとみられます。ということで今回は米国を中心に世界的に事業を展開する旅行セクターの銘柄をご紹介します。
ブッキング・ホールディングス、盛夏の動向に注目
ブッキング・ホールディングス(BKNG)は宿泊や航空券などのオンライン予約サービスを手掛けています。主力のブッキング・ドットコム、割引価格で宿泊予約や航空券を提供するプライスライン、アジア太平洋を中心に展開するアゴダは総合的なオンライン旅行予約のプラットフォームです。
また、旅行サイトを一括して検索し、航空券やホテル、レンタカーの料金を比較できるプラットフォーム、カヤックも運営。レンタカーをオンラインで検索して比較し、予約まで可能なレンタルカーズ・ドットコムに加え、レストラン予約のオープンテーブルというプラットフォームも展開しています。
主力のブッキング・ドットコムは世界有数のオンライン宿泊予約プラットフォームです。取り扱う宿泊施設は約220カ国の約270万件で、このうちホテルが40万件です。残りは自宅やアパートなどの民泊となります。
プライスラインはディスカウント価格で宿泊や航空券を予約できるサービスです。ホテルや航空会社は、埋まっていない客室や座席を格安価格で提示するときに使うことができます。客室や座席を埋めたいホテルや航空会社と価格を重視する消費者の思惑を合致させるプラットフォームといえそうです。
お笑いコンビ「バナナマン」のコマーシャルをTVやSNSでよく見かけるアゴダは、シンガポールに本拠を置いています。アジア太平洋地域で総合的なオンライン旅行予約のプラットフォームを展開しており、日本市場の開拓に力を入れている印象です。
ブッキング・ホールディングスの売上高はオンライン旅行予約の普及とともに右肩上がりに増えていました。2019年12月期まで16年連続で増収でしたが、パンデミックを受け、2020年12月期には売上高が前年比54.9%減の67億9600万ドル、純利益が98.8%減の5900万ドルに激減しました。
業績は2021年に反動で増収増益となり、2022年12月期には売上高が前年比56.0%増の170億9000万ドルに達し、2019年の実績を超えました。2023年1-3月期は売上高が前年同期比27.2%増の54億6200万ドル、純利益が50.5%増の12億9000万ドルと完全に成長軌道に戻っています。
ブッキング・ホールディングスは北半球の夏に業績が伸びる典型的なサマーストックです。7-9月期決算に注目したい銘柄です。
エアビーアンドビー、消費者の節約志向もチャンス
民泊仲介サイトを運営するエアービーアンドビー(ABNB)の旧社名はエアーベッド&ブレックファーストです。サンフランシスコでルームシェアをしていたブライアン・チェスキー氏とジョー・ゲビア氏は家賃の支払いに窮し、苦肉の策としてアパートの空き部屋にエアーベッドを膨らませて有料で旅行者を泊めました。この経験が起業のアイデアとなり、社名にも反映されたといわれています。
宿泊場所を探す旅行者(ゲスト)と空き部屋を貸したい人(ホスト)をつなぐプラットフォーム「エアービーアンドビー」は2008年に誕生しました。共同創業者のチェスキー最高経営責任者(CEO)とゲビア取締役がホスト第1号とされています。
それから15年。ホストの数は世界220カ国・地域で400万人を超え、ホストが提供する宿泊場所・体験の数は10万以上の都市・町で660万件を上回っています。
エアービーアンドビーは2020年12月には新型コロナウイルスが世界中の旅行業界を凍りつかせる中でナスダック市場への上場を敢行しました。鳴り物入りの新規上場は市場の注目を集め、初値は公開価格(68ドル)の2倍以上となる146ドルでした。株価は2021年に200ドルを突破した後に急落し、100ドルを大きく割り込みましたが、2023年7月には一時、初値を上回る水準にまで回復しました。
業績は2022年12月期決算の売上高が前年比40.2%増の83億9900万ドル、純利益が18億9300万ドル(前年は3億5200万ドルの純損失)でした。通期決算での黒字計上は初めてです。また、2023年4-6月期決算は売上高が前年同期比18.1%増の24億8400万ドル、純利益が71.5%増の6億5000万ドルです。
エアービーアンドビーは2023年1-3月期決算の黒字転換で4四半期連続の黒字となり、S&P500の構成銘柄になる要件をクリアしました。もともと時価総額などの基準は十分で、ついに2023年9月にS&P500に採用されています。
エアービーアンドビーは好況期に旅行需要が盛り上がる恩恵をもちろん受けますが、不況期の消費者の節約志向もビジネスチャンスにします。1泊数十万円もするようなラグジュアリーな邸宅から数千円の質素なアパートの一室まで、多様なホストと宿泊場所を提供できる点が強みなのです。
記事作成日:2023年10月19日
(DZHフィナンシャルリサーチ)