多くの人が、物価の上昇と公的年金に対して不安を感じています。その対策の1つとして、少額投資非課税制度(NISA)を活用した資産形成が注目されているといっても良いでしょう。
前回記事では、「年金で老後の日常生活費程度をまかなうのが難しい」と感じている人が38.1%いるとお伝えしました。その理由として最も多かったのは物価上昇、次は年金支給額の切り下げでした。
今回は、別の統計を用いて、人々が老後の生活資金をどのように考えているか、また、どのように準備しているかを見ていきましょう。
若い世代ほど公的年金には頼らない
前回記事でご紹介した、金融広報中央委員会(事務局:日本銀行)の「家計の金融行動に関する世論調査」では、老後の必要資金を年金でまかなうことが容易ではない、と考える人たちの姿が浮き彫りになりました。
老後の生活資金に関する人々の意識は、内閣府の「生活設計と年金に関する世論調査(令和5年11月調査)」でも見ることができます。
この調査は日本に国籍がある全国18歳以上の5,000人に対して郵送で実施され、2,833人から有効な回答が得られました。5年ごとに行なわれているこの調査は、前回までは対面の聴き取りでしたが、今回からは郵送に。前回までとの単純比較はできないものの、以前に比べると退職年齢を遅らせたり、老齢年金の仕組みや役割についての認識が高まったりしている傾向です。
この調査で「老後の生活設計の中で、公的年金をどのように位置づけていますか」と尋ねたところ、全体では「公的年金を中心とし、これに個人年金や貯蓄などを組み合わせる」と回答した人が過半数でした。どの年代でも最多の回答となっています。
興味深いのは、年代によって2位の回答が分かれたことです【グラフ1】。
高齢世代ほど「全面的に公的年金に頼る(赤色の棒グラフ)」と回答した人が多く、若い世代ほど「公的年金にはなるべく頼らない(紺色の棒グラフ)」が多いことがわかります。「40~49歳」を境に、赤色の棒グラフと紺色の棒グラフが逆転しています。
「18歳~29歳」と「50歳~59歳」、「30歳~39歳」と「60歳~69歳」いうように、30歳離れた層で比べてみると、親世代と子世代の意識の違いも見えてくるのではないでしょうか。また、18歳~29歳で「公的年金には全く頼らない(黄色の棒グラフ)」と回答した人が、他の世代より突出している点も興味深いです。
老後の生活準備資金に使われている方法は?
次は、最も多かった「公的年金を中心とし、これに個人年金や貯蓄などを組み合わせる」にフォーカスしてみましょう。公的年金以外に、どのような方法で老後の生活資金を準備している(準備してきた)のでしょうか。
複数回答で、「老後に向け、公的年金以外の資産をどのように準備したいと考えますか。または、準備をしてきましたか。」と尋ねたところ、預貯金が圧倒的でした。
多い順に、「預貯金(67.6%)」「退職金や企業年金(32.9%)」「NISA(少額投資非課税制度)(20.9%)」「民間保険会などの個人年金(14.5%)」「NISA以外の証券投資(11.7%)」(以下省略)となっています。
あらあら。これでは前回記事でお伝えした、急増する老後の心配のタネ「物価上昇」に耐えられないではありませんか! いえいえ。複数回答です。「預貯金と個人年金で」「預貯金と退職金とNISA」のように、預貯金を保有する人が多いのは自然なことといえます。
詳しく見ていくと、この質問でも年代で傾向が分かれているように感じました。とお伝えすると、「高齢者ほど貯金に預け、若い世代ほどリスク商品に投資をしているのではないか」と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、「預貯金」の回答を引き上げているのは若い世代です【グラフ2】。
やや専門的な話になりますが、複数回答ができる統計には、「M.T.(Multiple Total)」という指標があります。1つの質問に対して、1人の回答者がいくつの選択肢を回答したかを示す値です。この値から、この問いでは、高齢世代に比べて若い世代がより多くの複数回答をしていることがわかっています。
つまり、若い世代ほど多様な方法で、老後の生活資金を準備しているということです。国によって税制が優遇されている制度があり、勤務先で用意されている制度があります。さらに、利用する側としても、一人ひとりの状況において適した制度が異なる場合もあります。自分に合った方法で老後の準備ができるよう、各制度について正しい知識を持つことが大切なのではないでしょうか。
【出典】「生活設計と年金に関する世論調査(令和5年11月調査)」(内閣府)
記事作成日:2024年3月11日
(DZHフィナンシャルリサーチ)