日銀は緩和解除へ動かず、マーケット拍子抜け
日銀がマイナス金利解除へ動くのではとの思惑は期待外れでした。緩和解除へ向けた意思の現れと受け止められていた「チャレンジングな状況」との言葉も職務に取り組む姿勢を指すと説明されたことでマーケットは失望。加えてマイナス金利が解除されても、緩和的な状況が続きそうな点にも留意しておきたいところです。
12月18日(月)・19日(火)に開催された今年最後の日銀金融政策決定会合はマーケットの予想通り当座預金のうち政策金利残高に対する0.1%のマイナス金利を維持すると決定しました。10年物国債金利がゼロ%程度で推移するよう、上限を設けず必要な金額の長期国債の買入れを行う措置も維持されました。
超緩和策の現状維持が決定され、声明では粘り強く緩和を継続して、必要なら躊躇なく追加措置を講じるとの従来の文言を踏襲。フォワードガイダンスにも修正はありませんでした。結果発表直後、ドル円はまず143.78円まで円売りが先行しました(図表参照)。
今回の会合で実際に緩和解除へ踏み込むとの思惑以外に、実際に措置を講じなくとも次回会合での緩和解除へ向けた何らかの布石が打たれるのではないかとの期待が高まっていました。しかし政策変更はなく声明内容にも変化はなくマーケットは拍子抜けで円売りが進んだ格好です。
総裁会見を経ても円売り優位
会合後の植田日銀総裁による会見で何か緩和解除示唆の言及があるのではと期待をつなぐ向きもありました。ある意味失望を買った政策決定内容とバランスを取って失望を中和するような発言があるのではないかとの見方です。
会見で序盤に「基調的な物価上昇率2%に向け、上昇する確度が高まっている」と述べたところで143円半ばから142.55円前後まで下振れる場面がありました。緩和解除へのマーケットの期待が高いことを示すような反応と受け止めることもできます。
でも、「物価安定目標を十分な確度をもって見通せる段階にはない」「確度は上がっているが閾値に達するにはもう少し情報を見たい」と慎重な言葉が後に続くとすぐさま143円台へ戻してしまいました。
その後、欧州入りにかけて海外勢の参入が増えると円売りが加速。13日以来、4営業日ぶりの145円回復に迫りました。
「チャレンジングな状況」は職務姿勢を述べただけ!?
会見で失望を膨らませたのは、会合に先がけて議会証言で述べた「年末から来年にかけて一段と『チャレンジングな状況』になる」との言葉の意味合いについて質問された際の植田総裁による返答内容でした。マーケットでは「チャレンジングな状況」と述べた背景には、緩和解除へ挑む前向きな宣言のようなものと受け止めていたと思います。
しかし植田総裁の説明は「仕事の取組み姿勢一般に対するもの」にすぎないとの内容でした。会合前に緩和解除の期待で円買いが先行した大きな要因を否定するような言葉です。
「チャレンジングな状況」と述べたことでマーケットが前のめりにマイナス金利解除を織り込んだ動きをけん制する意味で言葉を濁しただけかもしれません。しかしマーケットははしごを外されたかたちとなり円売りが強まりました。
大きなポジションを含む複数のオプション(OP)が観測された節目145円を前に伸び悩み、同日ロンドンタイムで相応に円売りが進みきったとの判断か、NYタイムにはドル円の上昇(円売り・ドル買い)にも一服感が生じました。
米利下げ観測の根強さもあって翌日の東京タイムまでにかけて143円台へ押し戻されています。とはいえ「チャレンジングな状況」発言でいったん燃え上がった円買いムードはすっかり払しょくされています。
円買い強まるのはしばらく先か、緩和状態は続きそう
米利下げ観測を理由にドル売り・円買いが進むことは考えられますが、日銀のマイナス金利解除を後押しに円買いが進む場面はあったとしてもしばらく先になりそうです。
そして忘れてはならないのは仮にマイナス金利が解除されても、急激に引き締め的にならない可能性が高い点です。とあるストラテジストは「植田総裁はゼロ金利とフォワードガイダンスで金融緩和の状態を維持できると考えている」といいます。
植田総裁は黒田前総裁の異次元緩和に対しては否定的なようですが、拙速に引き締めを進めることには慎重です。マイナス金利による異次元緩和を解消しても、他の主要国と比べれば非常に低い金利ゼロの水準を維持し、合わせてフォワードガイダンスで必要な緩和状態を維持することが想定できます。
記事作成日:2023年12月20日
(DZHフィナンシャルリサーチ)