金融関係のニュースや新聞などをみていると、「アメリカの失業率が改善したこと受けて、ニューヨークダウ平均株価が上昇しました」などといった、経済指標を材料に株価や為替が動いたという文言をよく見かけると思います。
経済指標は、国や自治体、調査機関などから発表される経済の統計です。経済指標を確認することにより、株価の一時的な動きだけではなく、その国の景気動向を知ることができ、長期投資にとても役立ちます。
今回は、数多くある経済指標の中から、投資をする上で押さえておきたい基本的なものを米国中心にピックアップしていきたいと思います。
1.GDP(国内、域内総生産)
GDP(Gross Domestic Product)という言葉はよく耳にすると思います。GDPとは、一定期間内に国内(もしくは域内)で生み出された付加価値の総額であり、その国や地域の経済規模を表す経済指標として最も注目されます。
米国、日本ともに四半期ごとに発表されますが、米国は期末の翌月から1カ月ごとに速報値、改定値、確報値と3回発表されます。例えば、1-3月期の米GDPは速報値が4月下旬、改定値が5月下旬、確報値が6月下旬、そして、7月には4-6月期の速報値が発表されるといった具合です。
一方、日本の場合は、2回の発表があり、四半期の翌々月の中旬、1-3月期なら5月中旬に一次速報、6月上旬に二次速報(米国でいう確報値)が発表されます。
2.米雇用統計
米雇用統計は、世界でもっとも関心の高い経済指標と言ってもいいでしょう。それは、世界最大の経済規模を持つ米国の景気動向を示す数値であり、また同時に米連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board = FRB)の法的使命のひとつが「雇用の最大化」だからです。
米雇用統計で注目する数値は、失業率、非農業部門雇用者数、平均時給です。
景気が良ければ、失業率は低下し、非農業部門雇用者数が増加、平均時給も上昇していきます。景気が過熱するようだと、FRBは金融引き締めに動きます。いまの米国の経済状況は、これに当たります。
逆に景気が悪ければ、失業率が上昇、雇用は減少、時給も伸び悩みます。こういったケースでは、FRBは利下げに動くことが予想されます。
米雇用統計は米労働省から毎月第1金曜日に前月分が発表されます。まれに第2金曜日に発表されることがありますので、注意しておきましょう。また、前月、前々月の数値が大きく修正されることも多いです。
3.米消費者物価指数(Consumer Price Index=CPI)
米消費者物価指数も注目の経済指標です。先ほど、FRBの法的使命のひとつが「雇用の最大化」と述べましたが、もうひとつが「物価の安定」になります。このため、物価動向は、FRBが金融政策を決定する際の材料となります。
消費者物価指数は、消費者が購入するモノやサービスなどの物価の動きを把握するための経済指標です。
景気が良くなると、お金が回り、モノやサービスを購入する人が増え、物価は上昇します。その逆に景気が悪くなってくると、お金の回りが悪くなり、モノやサービスを購入する人が減り、物価は低下する傾向があります。
なお、FRBは、物価動向を見る際、米労働省が発表するCPIに加え、米商務省から発表される個人消費支出(Personal Consumption Expenditure = PCE)デフレーターを重視します。この二つの物価指数の違いは、計算方法、対象品目、対象品目へのウェイトです。特に計算方法の違いにより、労働省が発表するCPIの方が、高い数値が出やすくなる傾向があります。
米消費者物価指数は、月次べースで翌月の15日前後に発表されます。物価変動の大きい食品とエネルギーを除いたコアCPIも注目されます。米PCEデフレーターは月次ベースで翌月下旬に発表されます。
4.米小売売上高
米小売売上高は、スーパーマーケットやコンビニ、百貨店などの月間売上高をまとめた経済指標です。米国では、GDPの約7割を個人消費が占めており、消費動向は経済動向を把握する上で欠かせません。
なお、米小売売上高は、自動車販売のウェイトの高さやクリスマス商戦などの季節要因による一時的な振れ幅の大きさなどの問題もあるため、単月の数値をみるだけでなく、3-4カ月前後のトレンドを追った方がいいと思います。
また、自動車、ガソリン、建材、外食を除いたコア小売売上高という数値も発表されていますので、こちらの数値をみるのもいいでしょう。
米小売売上高は、米商務省から月次ベースで翌月の中旬に発表されます。また、同指標も修正幅が比較的大きいです。
5.貿易収支
貿易収支は、輸出額から輸入額を差し引いた数値です。輸出額が輸入額を上回れば貿易黒字、逆に輸出額が輸入額を下回れば貿易赤字となります。
通常は、貿易黒字の方が、景気がいいと言われますが、米国の場合、国内消費需要や設備投資が増えるなど、景気が回復すると輸入が増加し、貿易赤字が増える傾向があります。
一方、日本のように加工貿易国の場合、貿易赤字は国内産業の空洞化を示唆するので、注意が必要でしょう。
米貿易収支は、商務省から月次ベースで翌々月の10日前後、日本の貿易収支は、月次ベースで翌月末に発表されます。
6.日銀短観
最後に日本でもっとも注目される統計の一つ、日銀短観を紹介したいと思います。
日銀短観とは、正式名称を「全国企業短期経済観測調査」と言い、日本銀行(日銀)が3月、6月、9月、12月の年4回、景気の現状と先行きについて企業に直接アンケート調査し、集計するものです。
調査対象は、大手企業と中小企業の約1万社以上、これらの企業を製造業と非製造業に分け、業績や状況、設備投資の状況、雇用などについて実績と今後の見通しについて調査・集計を行います。同調査は、非常に回収率がいいと言われており、市場の注目度が高いです。
なお、同調査は調査月の翌月の第1営業日に発表されます。ただ、12月調査については、同月中旬の発表となります。
まとめ
今回は、基本的な経済指標をみていきました。経済指標の一つ一つがパズルのピースのようなものであり、それぞれが繋がり、経済の実像、景気の局面が見えてきます。
今回、紹介した経済指標のほかにも、重要なものが多くあります。機会があればご紹介したいと思います。
記事作成:2022年4月3日